セラピストにホースセラピーは必要?と疑問に思う方もいるかもしれません。
当校の動物介在療法の講義は、単に動物介在療法を学ぶだけではありません。
人と深い関わりのある「馬」の特性や行動、またその解剖運動生理学を学ぶことは、人をより深く知る手がかりになります。当校では、セラピストを目指す方々に、その事をぜひ知ってほしいのです。
まずは馬について知ろう
馬の特徴
馬は一般的に温厚で親しみやすい動物です。社会性が強く野生のものも家畜も群れをなす傾向があります。ただ臆病な面もあるため、いきなり近づく、そばで大きな声を出す、馬の視野から外れている真後ろから近づくなどすると、驚いて蹴られてしまうかもしれません。近づく時は、優しくおだやかな声をかけながら近づきましょう。
馬の目は単眼視といい、左右で別々のものを見ることができます。顔の両側に目が位置するため、視野が広く350度もあるとされていますが、両眼視できる範囲は狭いため、距離感を掴む事は苦手とする特徴があります。
また、感情表現は耳や尾でします。不安や恐怖を感じているときは、耳を左右に落ち着きなく動かしていたり、尾を後肢の間にいれたりしています。耳を後ろに伏せているときは、機嫌が悪いときです。嬉しいときは高くいななき、尾を高く振り軽やかな足取りで走ります。両耳が前を向いているときは、機嫌が良いか、何かに興味があるか、注意を払っている状態です。
馬は人の気持ちが分かるの?
2016年に英サセックス大学の研究チームが、馬は人の笑っている表情と怒った表情を見分けられるという研究結果を発表しました。
その報告によると、怒った顔の写真では心拍数が急上昇し、馬は左目でその写真を見つめていたそうです。左目を対象に向けるのは危険を感じたときにとる行動とされており、笑っている表情を見たときよりも反応が早かったそうです。
家畜化された結果、このように馬が人の感情をある程度理解できるようになったという事が言えるでしょう。
また神戸大学が、馬は自分で解決できない問題が起こると、人の注意を引いて助けを求めるという研究結果を報告しています。
人と馬の体の構造について
私たちは「人と馬の共通部分、人と馬の違う部分。それを理解することで、人についてより深く知ることができる」と考えています。
人の行動と馬の行動の違いを知ることで、人の行動をより深く理解できる
馬は、人と同じ哺乳類ですが、見た目には大きな違いがあります。
進化の過程で、人は直立して両手でものを操作するようになり、やがて完全な直立二足歩行になりました。
馬の場合は、肉食動物から逃げるために早く走る必要がありました。蹄を獲得し、中指だけで立つことで、逆に瞬発力と早く走る能力を身につけました。
人と馬の骨を見ると大体同じような構造をしていますが、足のように違いもあります。
人の腕、足の付け根にはそれぞれ肩甲骨、骨盤があります。馬は四足歩行ですが同じように肩甲骨と骨盤があります。しかし人の手足が違うように、前脚と後ろ脚とでは違いがあります。
身体構造の違いは、それぞれの動物が必要な進化をしたことによります。それらを知ることで、人がなぜ前足に相当する部分を手という構造に特化させたのか、移動能力をなぜ二足歩行に特化させたのかをより深く理解することができます。
これらについて学ぶことが、日常生活での手による操作という動作の重要性、移動や姿勢保持という機能に関係する脚の重要性をさらに理解することにつながります。
人と馬の共通部分から人の行動を理解する
人は子どもをしつけます。お母さんが子どもを怒ったり注意したりします。
馬も群れる動物で、仔馬が危険なことをしようとしたら威嚇して怒ります。その様子はどこか人の子どもを叱る様子に似ています。
人と馬の過去・今・そしてこれから
もともと日本には馬はいませんでした。古墳時代にモンゴルから朝鮮半島を経由し持ち込まれて広まっていき、その主な用途は、輸送や農耕、そして軍事でした。
しかし農業や輸送など機械化が進み、それらで馬を使うことはほぼ無くなり、現在では乗馬や競馬、食用馬として飼育されているほか、コミュニケーション能力が優れているのでセラピーにも用いられています。
馬と触れ合うことでストレスが解消し、心が癒される心理的効果や、乗馬することで全身の筋肉の強化や身体バランスが向上する効果があります。
認知症の予防や改善にも効果があると言われているホースセラピーですが、日本でも認知度が高まっており、世界でも保険適応になっている国が増えています。これから先、補完医療として身近なものになり、治療の選択肢のひとつとして上がるようになったときに活躍できる療法士を育成することが、当校の義務だと考えています。
四條畷市と馬の歴史
当校のある四條畷市は、馬との関係が深く、古墳時代の中期から後期にかけて、馬飼いが盛んに行われていたことが発掘調査によって分かっています。
奈良井遺跡や鎌田遺跡からは、祭祀跡から馬関係の遺物が多く出土しました。また、蔀屋北遺跡では、馬を飼っていた人々の集落跡がみつかり、馬の墓も発見されました。(※1)
このことより、当時の人たちが馬を大切に扱っていたことが分かります。
四條畷市には、遺跡より発掘された馬型埴輪モチーフにした「はに丸」というキャラクターもいます。
※1https://www.city.shijonawate.lg.jp/site/bunkazai-shiseki/1953.html
(四條畷市HP)