「リハビリテーション」という言葉を聞くと、イメージするのは理学療法のように運動に携わる職業を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。リハビリテーションに関わる職業は、主に、理学料療法士、作業療法士、言語聴覚士があります。ここでは作業療法士が、どのような仕事なのか、どんなところで活躍しているのかなどを説明していきます。
目次
作業療法士とは何か?
作業療法士は国家資格です。国から認められて、作業療法を行います。英語では、「Occupational therapist」と言い、日本ではOTと略されます。
作業療法士の「作業」とは、食べたり入浴したり、家事や仕事、趣味活動など人が関わるすべての諸活動のことを指します。病気やけが、心の病、認知症など、様々な要因でその人らしい「作業」が行えなくなったとき「作業」に焦点を当てて治療を行います。また「作業」を通じて諸活動に参加できるように援助する治療法です。
作業療法士は、以下の3つの改善を図ります。
・基本的動作能力(運動や感覚・知覚、心肺や精神・認知機能などの心身機能)
・応用動作能力(食事やトイレ、家事などの日常で必要となる活動)
・社会的適応能力(地域活動への参加、就学・就労など)
また、環境(人為的環境、物理的環境、社会的環境)の調整や、社会資源や諸制度の活用の促進なども含めて、その人らしい「作業」の獲得をサポートします。
作業療法士の特色
作業療法士の特色は、体と心のリハビリテーションの専門家であるということです。具体例を挙げて説明します。
例えば、体に麻痺がおこり、着替えが今まで通り行えなくなってしまった人に作業療法を行うとします。作業療法士は、実際に着替えやすい方法を伝えて練習をしたり、着替えの際に上手く腕が動かせなかったら腕のトレーニングを行います。
また、着替えの方法が分からなくなってしまった人には、精神面や認知機能面からどうしてできないかを考え、サポートを行います。その人らしい「作業」ができるように、体と心の両方の問題に「作業」を使ってサポートを行うのが、作業療法士です。作業療法士は、リハビリテーション専門職の中で、統合失調症や気分障害などの精神障害がある方への治療が行える唯一の職業です。そのため、精神病院や介護施設などでも、その専門性を発揮しています。
どこで仕事をしているの?
作業療法士は、医療や福祉、介護をはじめ、教育や保健、職業関連領域など様々な場所で活躍しています。
以下に、作業療法士の勤務している場所をまとめました。
・医療分野:一般病院、リハビリテーション病院、精神病院、地域医療支援病院など
・福祉分野:身体障害者更生施設、児童福祉施設、知的障害者福祉施設など
・介護分野:介護老人保健施設、通所リハビリテーション、訪問リハビリテーションなど
・職業関連:就労支援事業施設など
・保健分野:地域包括支援センター、保健所、保健センター、地方自治体など
・教育分野:特別支援学校など
作業療法士になるには
作業療法士になるには、国家試験を合格しなければなりません。
国家試験を受けるには、まず、作業療法士養成課程のある専門学校や短期大学、大学に入学する必要があります。そこで、作業療法について3年以上学び、必要な技術や知識を修得しなくてはいけません。
また、実際の現場で必要な評価や治療を行う臨床実習を行い、現場の作業療法士から指導を受けます。
養成校卒業後(卒業見込みを含む)、毎年1回行われる国家試験を受け、合格すると作業療法士の国家資格を取得できます。
作業療法士国家試験の合格率
2020年2月に行われた第55回作業療法国家試験の合格状況は以下の通りです。
受験者数6352人(うち新卒者4795人)
合格者数5548人(うち新卒者4515人)
合格率87.3%(うち新卒者94.2%)
第55回試験の結果は、過去5年の中で2番目に合格率が高かった年でした。
しかし、過去5年の新卒者の合格率は全体の合格率よりも高く、養成校でしっかりと試験対策を行うことで、合格できる試験であると言えます。
以下に過去5年分の合格状況を記載しますので、ご参照ください。
受験者数(人) | 合格者数(人) | 合格率(%) | ||
2020 | 第55回 | 6352 | 5548 | 87.3 |
2019 | 第54回 | 6358 | 4531 | 71.3 |
2018 | 第53回 | 6164 | 4700 | 76.2 |
2017 | 第52回 | 5983 | 5007 | 83.7 |
2016 | 第51回 | 6102 | 5344 | 87.6 |
まとめ
理学療法士や言語聴覚士など様々なリハビリテーションの専門職が活躍していますが、その中でも作業療法士は唯一、体と心の双方にアプローチすることができる職業です。今後、日本の高齢化が進み、作業療法を必要とする方が増え、活躍の場はますます広がります。現状では、作業療法士国家試験の受験者は、理学療法士の国家試験の受験者よりも少ない状態ですが、作業療法士はとても魅力のある職業です。作業を通して「その人らしい」生活が送れるようにサポートする作業療法士。リハビリテーションでどの職業を目指すか迷っている方は、ぜひ作業療法士を目指してみてはいかがでしょうか。