作業療法士は、リハビリテーション専門職のひとつです。他のリハビリテーション専門職と異なり、「心」と「からだ」の二つの治療を担当することができます。その特色を生かし、病院やリハビリテーションセンター以外にも、精神科や児童福祉施設など、幅広いフィールドで活躍しています。 ここでは、様々な場所で活躍する作業療法士の資格がどのようなものかご紹介します。
目次
- 作業療法士の資格とは
- 作業療法士の資格があるとどんな仕事ができるの?
- 作業療法士は具体的にどんな治療を行う?
- 作業療法の対象
1.こころの障害
2.からだの障害
3.発達期の障害
4.高齢期の障害 - 作業療法士国家資格の合格率
- まとめ
作業療法士の資格とは
作業療法士は国家資格です。毎年1回行われる国家試験に合格することで、作業療法士の資格を得ることができます。しかし、作業療法士国家試験は申し込みをすれば受験できるものではありません。作業療法士国家試験を受けるには、受験資格を満たす必要があります。まず、作業療法士養成課程のある専門学校や大学に入学する必要があります。
そこで、作業療法について3年以上学び、必要な技術や知識を修得しなくてはいけません。 養成校卒業後(卒業見込みを含む)、毎年1回行われる国家試験を受け、合格すると作業療法士の国家資格を取得できます。
作業療法士の資格があるとどんな仕事ができるの?
日本作業療法士協会では、作業療法は以下のように定義されています。
「作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行われる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す。」
引用:日本作業療法士協会
作業療法の対象は、からだの障害や心の病、生まれつきの障害がある方に対して行われます。作業療法は、生活していくために必要な動作や社会に適応するための能力、家事や余暇活動などの様々な「作業」や生活が行えるように支援を行い、また「作業」を通じて社会とのつながりを築けるようにしていきます。
作業療法士は具体的にどんな治療を行う?
作業療法は、以下の3つの能力の維持改善を目的に行われます。
・運動や精神機能などの基本的能力
・食事やトイレなど生活で行われる活動である応用的能力
・地域活動への参加や就労就学などの社会的適応能力
以上の3つの能力改善に対して、実際にどのように治療しているのかイメージしにくいですよね。それでは、実際に例を挙げて、説明します。
脳梗塞の後にトイレに行くことが難しくなり困っている方に対し、作業療法を行うとします。
脳梗塞は、脳の血管が詰まり、血流が悪くなることで脳細胞が壊死し、その部分の機能が低下してしまいます。
脳機能が障害されたことにより、片麻痺や高次脳機能障害などが生じます。作業療法士は、麻痺などの体の様子を確認するとともに、トイレの手順は覚えられるのか、状況を把握できているのかなどの考える力も評価します。その上で必要なトイレの動作の練習や、考える力を養う練習などの支援をしていきます。 「心」と「からだ」のリハビリテーションを行い、その人らしい生活がまた送れるようにサポートを行うことが作業療法です。
作業療法の対象
作業療法士は、赤ちゃんからお年寄りまで幅広い方を対象に治療を行います。
<こころの障害>
統合失調症、気分(感情)障害、神経症性障害、ストレス関連障害、精神作用物質による障害(アルコール依存症など)、器質性精神障害(認知症など)、その他
<からだの障害>
脳血管障害(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など)、高次脳機能障害、脳・ 脊髄腫瘍、脊髄損傷、多発性硬化症、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、末梢神経障害、骨折、切断、その他
<発達期の障害>
脳性まひ、脳形成不全、小頭症、水頭症、奇形症候群、二分脊椎、知的障害、多動性障害、学習障害、その他
<高齢期の障害>
器質性障害(認知症)、脳血管障害、骨関節障害、廃用症候群、その他
作業療法士国家資格の合格率
昨年の作業療法士国家試験の受験者数と合格率は以下の通りです。
第55回試験(2020年)
受験者数6,352人(新卒者のみ4,795人)
合格者5,548人 (新卒者のみ4,515人)
合格率87.3%(新卒者のみ94.2%)
第55回作業療法士国家試験は一般問題157点満点(1問1点)と実地問題120点満点(1問3点)の計277点の構成でした。合格基準は、総得点167点以上、実地問題43点以上でした。過去5年の合格率は70%以上であり、中でも新卒者のみの合格率はいずれの年でも全体の合格率より高い傾向にあります。
養成校でしっかりと勉強を行えば、合格もつかめる資格だと思いますが、一方、養成校で学習していても10人に1人は不合格になっています。 合格率に左右されず、養成校でしっかりと勉強をしましょう。
まとめ
作業療法士は、リハビリテーション専門職の中で唯一、「心」と「からだ」両方を治療できる仕事です。対象となる方も、幅広く、学ばなくてはいけないことも多くあると思います。しかし、その人らしさを取り戻す過程に多方面から携われることは、やりがいがある仕事だと思います。また、幅広いフィールドを選択できるのも魅力の一つです。 興味がある方は、ぜひ、作業療法士を目指してみてはいかがでしょうか。